宅地造成などでよく使われる L型擁壁。
この擁壁がどのように土を支えているのか、構造の観点から分かりやすく解説します。
擁壁は「土圧」を受け止めるための構造物
擁壁の主な役割は、背面にある土からの“土圧”を受け止めて、敷地の崩壊を防ぐことです。
とくにL型擁壁は、断面が「L字型」をしており、垂直の壁(竪壁:たてかべ)と下部の底版で構成されています。
土圧を受け止めるのは「竪壁」
背面の盛土から押し出される土圧は、まず **竪壁(垂直な壁部分)**が直接受け止めます。
この部分には 曲げモーメントやせん断力 が発生するため、高さが高くなるほど、必要な壁厚や鉄筋量が増加します。
📌 一般に、擁壁の高さ(H)が倍になれば、土圧の大きさは2〜3倍近くに増加します(静止土圧係数などによる)。
擁壁自体が「滑らない」ことが重要
いくら竪壁が強くても、擁壁本体が地面の上を滑ってしまえば意味がありません。
そのため、L型擁壁では次のように**“滑動(かつどう)”への抵抗力**を確保しています。
滑動抵抗の仕組み
擁壁が滑らないためには、地盤との摩擦が重要な役割を果たします。
摩擦抵抗力をつくるもの:
- 擁壁の自重(コンクリート自体の重さ)
- 底版の上に載る土の重さ
- 地盤と底版の接地面での摩擦係数(土質に依存)
これらが合わさって「摩擦抵抗力」となり、土圧に対抗します。
底版が長く・重くなるほど、滑動には有利になります。
さらに確認:沈下しないか?
滑動しないことを確認したあとは、擁壁が偏荷重により地盤へ沈み込まないかを確認する必要があります。
これは**“地盤の支持力”**が関係します。
- 土圧は擁壁の背面から一方向にかかる
- 結果として擁壁の 荷重中心が偏る
- 偏荷重により、沈下や転倒のおそれがある
そのため、基礎地盤が均質で強度が十分にあることが必要になります。
実務でよくある設計判断
構造設計の実務では、滑動の検討が設計の分かれ道になることが多いです。
- 多くのケースで、滑動に抵抗するために底版寸法が決まる
- つまり、“滑らないようにする”ことが一番の制約条件になる
実際には、設計者が「滑動NG → 底版を延ばす →断面再計算」というフローをよく経験しているはずです。
地盤調査で余裕を持った設計ができることも
地盤調査や土質試験を行えば、地盤の摩擦係数や支持力を正確に把握できます。
これにより、摩擦抵抗を大きく見込める=底版を短くできる可能性もあり、コストダウンにもつながります。
まとめ
L型擁壁は、土圧を受け止める竪壁と、滑らず沈まないための底版と地盤の組み合わせで成り立っています。
擁壁設計では「構造の安全性」と「敷地の有効利用」のバランスを見極めることが重要です。
✅ StructureBankでは、構造設計者が設計したL型擁壁の計算書・構造図をオンライン販売中です。
実績あるモデルで、滑動・転倒・支持力の検討をすべて含んだデータを、1件20,000円(税込)でご提供しています。
現場の設計や申請準備の時短に、ぜひご活用ください。